今日もクリスマスのアルバムを一枚。Det Norske Jentekor (The Norwegian Girls Choir, ノルウェー少女合唱団), Anne Karin Sundal-Ask指揮、 Tord Gustavsenピアノによる 『stille grender』。2枚組で、1枚目はピアノと合唱、2枚目はトルド・グスタフセンのソロピアノになっている。グスタフセンはノルウェー出身のジャズピアニストで、ECMからトリオやカルテット等のアルバムを数多く発表している。
グスタフセンは北欧系の静謐な曲が多いので、賛美歌のような曲が集まったアルバムだろうかと思って聞いたのだが、やはり一筋縄ではいかないところが面白い。1曲目Carol of the Bellsはウクライナのクリスマスキャロルであるものの、低音だけを力強く弾くイントロにはじまり、低音のピアノをベースにしたスピードと緊迫感のある合唱。2曲目はピアノソロで前曲をモチーフにしたオリジナル曲。
全体にノルウェーを中心とした北欧のクリスマスキャロルやクリスマスソングで構成されている。
3曲目Det lyser i stille grenderはタイトル(の一部)曲だが、ノルウェーのクリスマスソングで、ポピュラー曲をアレンジしたものだ。その後合唱だけの曲が2曲続く。5曲目のJul i svingenはアルペジオの合唱の上に、おそらくちいさい少女たちの歌うメロディが重ねられて静かでやさしいクリスマスらしさが演出された曲だ。6曲目は有名なきよしこの夜だが、ジャジーなピアノに控えめなユニゾンが乗って、他にはない仕上がりだ。
以前紹介したJan Gunnar HoffのStille lysもそうだったが、北欧には美しいクリスマスキャロルが本当にたくさんある。(ちなみに2つのアルバムタイトルにあるstilleは「静かな」という意味だ。grenderは村とか集落の意味。)このアルバムで取り上げられた曲の多くは19世紀中葉に書かれたものである。10曲目Jeg er så glad hver julekveldもシンプルな短いメロディの繰り返しだが、変化に富むピアノと合唱で、徐々に天国に登っていくかのように豊かな展開を見せている。それでいてつねに控えめで、決して欲張らないのがなお良い。この禁欲と謙虚もまた賛美歌の美しさである。
なかでも素晴らしかったのは12曲目のMitt hjerte alltid vanker。スカンディナヴィアの有名なクリスマスキャロルで、非常に美しい旋律なのだが、敢えてそれをじっくり聴かすのではなく、初めは輪郭のはっきりしない自由なリズムのピアノソロが続く。徐々にピアノに動きが出てきて、はじめて歌が入るのは8分半ある曲全体の半分あたり。しかもはじめはユニゾンで、そこから合唱へと発展してゆくのだが、その様は本当に美しく、聖母の受胎からキリストの誕生に至る奇蹟を目撃しているかのようだった。
2枚目はすべてグスタフセンのオリジナル曲で、Inkarnasjonという組曲を中心に構成されている。英語だとincarnation、つまり顕現とか肉体化、おそらくここでは神の子キリストが人間の姿になってこの世に現れることを意味しているのだが、宗教的な主題の音楽が中心。前半のように静謐で禁欲的な音楽かといえばそうではなく、むしろ混沌としたものや無秩序、奇蹟の力強さや輝かしさ、そして受難、悲しみやときに怒りも混ざり合った人間のリアルな姿が現れているようだった。そしてときおり賛美歌の旋律が現れ、人間的なものと拮抗し、洗い流してゆく。
2枚のCDで通じるテーマを扱っていながら、表現の仕方は片方が神聖で片方が通俗というか、陰と陽というか、ぜんぜん違っているけれどもそれらは表裏だし、どちらも真実だ。神聖なものに思いを馳せて救済を願うことも、現実の苦しみの声に耳を傾けて泥臭く働くことも両方が必要なことだ。わたしたちが幸福なクリスマスを迎えているあいだに、それが叶わない人も沢山いることを思い出さなければならない。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」と言った宮沢賢治を思い出し、救済を考える1枚だった。

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