これからしばらくは、わたしが普段愛聴しているアルバムをいくつか紹介していきたいと思います。まず今回は、わたしが愛してやまない北欧の現代ジャズを取り上げたいと思います。
なお「生涯の愛聴盤」はピーター・バラカンさんの書籍『Taking Stock』からのアイデアです。クラウドファンディングのリターンで頂いたのですが、21世紀のアルバムから愛聴盤を紹介する本で、巻末には生涯にわたって愛聴しているアルバムがリストアップされています。
生涯の、と言えるほどの人生でもないですが、ながらく聞き続けている愛聴のアルバムを自分も整理してみたいな、と思ってまとめてみました。
Esbjörn Svensson Trio『Seven Days of Falling』(2003)
北欧ジャズを語る上で最初に名前が挙がるのが e.s.t. (Esbjörn Svensson Trio)、わたしも最も好きなアーティストです。Esbjörn Svensson (ピアノ)、Magnus Öström (ドラム)、Dan Berglund(ベース)により1993年に結成されたスウェーデンのトリオですが、ジャズをベースに、メタルやエレクトロの要素も取り入れて世界中で絶大な人気を誇りました。本国ではポップチャートにランクインするなどジャズの範疇を超えた活躍をしていました。2008年にEsbjörn Svensson がダイビング中の事故により他界し、解散してしまいましたが、いまもその影響はヨーロッパジャズ全体に浸透しているほど大きな存在です。
電子音とエフェクトを多用しながら深い透明度と叙情性を併せ持つ音楽性は、2002年のStrange Place for Snowで完成したとも言われていますが、このアルバムは特にそのe.s.t.らしさを存分に発揮したアルバムです。タイトル曲Seven Days of Fallingはその透明な空気感のなかに彼らの宇宙を詰め込んだような曲で何度も繰り返し聴いています。一方でMingle In the Mincing-Machineのように強くモチーフを繰り返すポストロック的な演奏をする曲もあり、いつ聴いても飽きないアルバム。最後のO.D.R.I.Pには隠しトラックが入っており、アルバムに収録された曲Believe, Beleft, Belowに歌詞をつけたものですが、歌っているのはCharlie Hadenの息子Josh Haden。
Daniel Herskedal 『The Roc』(2017)
このブログでも何度か名前の挙がったノルウェーのチューバ/バストランペット奏者Daniel Herskedalのリーダー作。2010年にCity StoriesでNorCDからデビューし、2012年にはMarius Nesetとの共作『Neck of the Woods』をEdition Recordsから発表。2015年の『Slow Eastbound Train』でも本作同様のアンサンブルで存在感を示しました。
本作はEyolf Dale(ピアノ)、Bergmund Waal Skaslien(ヴィオラ)、Svante Henryson(チェロ)、Helge Andreas Norbakken(パーカッション)が参加しています。ソロよりも全体のハーモニーを重視したように思えるアンサンブルなのですが、ほどよい調和が取れた一方でそれぞれの個性も生きていて、Eyolf Daleの溶け込んで生地を染めるようなピアノ、音に飾りを添えるパーカッションなど、静かな印象の曲なのに聴いていていつもワクワクします。
Jan Gunnar Hoff 『Living』(2013)
Jan Gunnar Hoffはノルウェーのピアニスト。 1976年、自身のトリオAd Lib Jazzklubbでデビューし、Arild Andersenや Nils Petter Molvaerらと活動を共にした後、1993年からバンドリーダーとしての活動を始めました。叙情的で静かなプレイをするピアニストですが、最近はミニマルでじっくりと語りかけるような演奏のソロアルバムを多く制作しています。
本作はほとんどが彼のオリジナル曲で、心にしったりと寄り添うような音です。暖炉を前にして、なにも喋らないでじっと聞き入りたいような。あるいは眠れぬ夜に、古い手紙を読み返して終わった恋の残り香を探すような、そんな雰囲気で聴きたい音楽です。
Lars Danielsson 『Liberetto』(2012)
Lars Danielssonはスウェーデン出身のベーシスト/チェリスト。1980年に自身のカルテットでデビューし、現在ではヨーロッパジャズ界の重鎮の一人になっています。ベーシストとして安定した演奏をする奏者であり、コンポーザーとしても甘美なメロディで魅了するたぐいまれな才能に恵まれたミュージシャンです。いつか生で聴いてみたいアーティストの一人ですが、なかなか来日してくれないので困っています。
本作にはTigran Hamasyan(ピアノ)、 Magnus Öström(ドラム)、Arve Henriksen(トランペット)、 John Parricelli(ギター)が参加しています。見逃せないのは何と言っても当時24歳だったティグラン。ダニエルソンとティグランはレコーディングの1週間前に始めてライブで共演したそうですが、ダニエルソンによればティグランは「自分が見るのと全く同じように私の音楽を見ているし、自分が作るのと全く同じように作曲する」という息の合い方を感じたといいます。現在のティグランと比べるとモデストで、物足りない演奏に思われるところもありますが、
また本作は元e.s.t.のMagnus Öströmと初共演した作品でもあります。ダニエルソンは長くオストロと共演を熱望していたといい、またe.s.t,解散後に新しい音楽を求めていた彼の願望とも一致して新しい音楽を見せてくれました。
ダニエルソンとティグランの作曲が多いのですが、どれも繊細で美しい曲ばかり。なかにはアルメニアの民謡Hov Arek Sarer Djanを演奏したり、神秘的な印象の曲もあったり、彩りは鮮やかですが安定感のあるアルバムです。2014年のLiberetto IIでもヘンリクセン以外のアーティストは参加しており、こちらもとても美しいアルバムです。
Lars Danielsson & Leszek Możdżer 『iTunes Live : Berlin Festival』(2008)
1曲目に入っているSufferingはコンサートの最後に演奏されたのですが、切ないメロディに、急流を下るような目まぐるしいピアノのソロ。心臓ごと持っていかれてしまうのではないかという演奏。
Eja Mitt Hjärta は北欧民謡ですが、それ以外はふたりのオリジナル曲で構成されています。メランコリックだけど邪なところが一切ない清澄なピアノと、緻密で冷静なベースとチェロの息がぴったり合って、ふたりの音楽が手に届かないほどの高みに達するようです。
Leszek Możdżerはポーランドのピアニスト。ショパンをテーマにしたアルバムChopin - impresjeで1996年にデビュー。Danielssonとの共演は長く、ドラマーのZohar Frescoも交えたトリオで2005年のライブアルバムThe Time以来、現在に至るまでながらく共演を続けています。
Iiro Rantala, Lars Danielsson & Peter Erskine 『How Long is Now?』(2016)
過去の偉大なミュージシャンへの敬意も強く、2011年のアルバムLost HeroesではEsbjörn SvenssonやMichel Petrucciani、そしてフィンランドのシベリウスらへ捧げた音楽を1枚のアルバムに収めたほか、ジョンレノンのトリビュートアルバムなどもリリースしています。
本作はLars Danielsson(ベース)とPeter Erskine(ドラム)によるトリオの演奏ですが、ピアノトリオの定石からは外れた演奏で、音の厚みも5人分くらいある印象です。誰がリーダーなのかもさっぱり分からないし、ベースがテーマを弾いてその後にピアノソロが入るような演奏もあり。それでいてちぐはぐなところが全くなく、しっとりとまとまっているのはTrio Töykeät時代からのRantalaらしいところです。Lars Danielssonはイメージをしっかり固めてからスタジオに入るタイプなので、時折綺麗にまとまりすぎて埋没してしまう演奏もあるのですが、本作ではかれの個性とテクニックを十分に聴かせてくれます。






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