生涯の愛聴盤⑩伝統音楽・ワールドミュージック篇

今回で生涯の愛聴盤シリーズは最後です。最初は伝統音楽(民族音楽)とワールドミュージックを別の記事にしようかと思ったのですが、なかなか区切りを付けるのが難しいので長いけれどひとつの記事になってしまいました。

3MA (Rajery, Ballaké Sissoko & Driss El Makoumi)



 Dhafer Youssef 『Abu Nawas Rhapsody』(2010)

Dhafer Youssefはチュニジア出身のウード奏者、ボーカリスト。カワーリー(スーフィー音楽)とジャズ、フュージョンを融合させた幻想的で神秘的な演奏が魅力。このアルバムにはピアノにTigran Hamasyanが参加しており、煌めくようで禁欲的な美しさが遠い世界へと誘うようだ。幻想的で静かな音から、即興的で目まぐるしく踊るようなピアノソロまでアルバムに一貫した祈りのような響きが通底する。独特のボーカルに彩りを添えるピアノは伝統音楽も吸収したティグランならではの音。中東音楽やジャズの枠を超えた、アフリカやインドに及ぶ広がりを感じさせるアルバム。


Taksim Trio 『Taksim Trio』(2007)

Taksim Trioはイスタンブルを拠点に活動する、Hüsnü Şenlendirici(クラリネットAytaç Doğan(カヌン)、İsmail Tunçbilek (バグラマ)によるトリオ。いずれも音楽家の家庭に生まれたいわば純血のミュージシャンによるトルコ伝統音楽だが、現代的な感性によるポップでとても聴きやすいアレンジだ。トルコ音楽に馴染みのない人でもオリエンタルな雰囲気は気軽に楽しめるかもしれない。Hüsnü Şenlendiriciはジャズ畑でも活躍しており、Dhafer Youssefのアルバムにも参加している。


Tamikrest 『Chatma』(2013)

Tamikrestは2006年に結成したトゥアレグ族のバンドで、メンバーは若い頃から内戦によって家族や友達を失ってきた。武器ではなく楽器を手に闘うことを決めた彼らの悲哀と誇りに満ちた音楽にいつも心打たれる。トゥアレグのバンドといえばTinariwenも有名だが、Tamikrestはロックの影響が強くて、独特なリズム感が「砂漠のブルース」と言われるゆえんだ。特に技巧的とか先進的という訳ではないのだが、自分たちの思いや願いを、自分たちの音楽で表現することのかっこよさ、そういう音楽こそ心に響くのだということを思い出させてくれる。


Inga Juuso & Steinar Raknes『Skáidi - Where the Rivers Meet』(2008)

Inga Juusoはノルウェー、ラップランドの先住民サーミの伝統歌唱であるヨイクの歌手で、ジャズのミュージシャンとも多くの共演を行っている。Steiner Raknesは日本でも人気のあるノルウェーのベーシストで、ジャズを中心に活動していたが、その後はミニマルな音楽を演奏するようになった。ヨイクと言っても様々なのだが、喉を使った独特な歌唱法で、もともとはアニミズム的な信仰に基づく、自然の霊に語りかけるための音楽だった。ここでもSteriner Raknesはジャズというよりは歌曲に合わせた控えめなベースを演奏していて、ヨイクの存在感を引き立てるよう。


Bela Fleck 『Throw Down Your Heart: Tales from the Acoustic Planet, Vol.3 - Africa Sessions』(2009)

ブルーグラスやジャズで活躍するBéla Fleckが様々なジャンルのミュージシャンとセッションを行うTales from the Acoustic Planetシリーズの第3弾だが、このアルバムだけが飛び抜けた存在感があるのは、アフリカの伝統音楽のミュージシャンらとセッションしているからだろうか。しかもスタジオセッションではなく、そのほとんどがアフリカ各地の村に住んで生活の一部として音楽を演奏する人たちであり、村を訪れてリハーサルもほとんどなく、その場で録音されたような生の音なのである。生きた音楽の活気と、そこになんの遅れもなく加わるBélaの類い希な才能が遺憾なく収められたアルバムだ。3枚組の完全版もあり、アルバム本篇には収録されなかったレコーディングを存分に楽しむことができる。


Sharon Shannon & Big Band『Live at Dolans』(2006)

ケルト音楽は日本でも人気で、なかでもSharon Shannonはケルティック・クリスマスなどのイベントでもたびたび来日公演をしている日本でも人気のアコーディオン・フィドル・ホイッスル奏者。デビュー作にU2のAdam Clayton等が参加し、アイルランドで伝統音楽のアルバムとして史上最多のセールスを誇った実力派だ。このアルバムは多くのゲストミュージシャンが参加した豪華なライブ音源。冒頭のCavan PotholesはDónal Lunny作曲の楽曲だが、この一曲だけで会場が沸き立つのがよく分かる。とても盛り上げるのが上手で、底抜けの明るさをもつ彼女の音楽が存分に味わえるアルバム。


Buena Vista Social Club『Buena Vista Social Club』(1997)

説明不要かもしれないが、Ry Cooderがキューバを訪問した際に現地のミュージシャンらと行ったセッションを録音したもので、1999年に同名のドキュメンタリー映画がヴィム・ベンダーズ監督で製作されたことで、キューバ音楽を世界に知らしめた作品。わたしがキューバを訪問したのは2011年で、この頃はまだキューバ音楽にあまり興味がなかったのだが、至る所に音楽が溢れていて、お金がなくても音楽をやっている人はとても多くて、町を歩いているとこれからうちでセッションやるから来ないかい、なんてよく誘われたものだった。思えばあれがワールドミュージックに関心を持ったきっかけだったのかもしれない。帰国してから映画を見て、このアルバムを買ってキューバ音楽を聞くようになり、ラテンを聞くようになったのだ。


Transjoik & Sher Mianad Khan『Bewafá』(2005)

映画「アナと雪の女王」のオープニングでヨイクと合唱を組み合わせた音楽を手がけた(らしい。わたしはこの映画見たことないので)Frode Fjellheimがヨイクやジャズ、テクノ、アンビエント、電子音楽などを融合し実験的な音楽を演奏するプロジェクトがTransjoik。当初はFrode Fjellheim Jazz Joik Ensembleの名義で活動していた。Sher Mianad Khanはパキスタンのカワーリー(スーフィーの音楽)のミュージシャン。

正直なところ、最初に聞いたときはほとんどピンとこなかったのだが、ほとんど接点がないかと思っていたヨイクとカワーリーが意外にも繋がっている。だいぶカワーリーや南アジア音楽のほうに寄せた印象はあるのだが、そのためか無理矢理に繋げたちぐはくな感じはほとんどなく、言われなければ北欧音楽とも気づかないかもしれない。それでもなお電気っぽいパキスタン音楽に収まらない深みを感じさせるのがFrode Fjellheimの力量であり、ジャズがベースにある音楽の懐の深さなのだと思う。


JMO (Jan Galega Brönnimann, Moussa Cissokho & Omri Hason)『Al Nge Taa』(2016)

比較的最近のアルバムだが大好きな1枚。バスクラの音が好きなのでジャズのバスクラ奏者はずっと追いかけているのだが、アフリカ音楽とのコラボを行っている奏者がいると知って飛びついたのがこのアルバム。2018年には晴れ豆で来日公演を行っている。シンプルなモチーフを繰り返しながら即興を載せてゆくのは西アフリカに多い特徴だけど、中東のリズム感を感じさせる広がりのある演奏だ。

Jan Galega Brönnimannはバスクラリネット/コントラアルトクラリネット奏者でカメルーン出身(スイス国籍)、アフリカのみならずヨーロッパや南米など世界中のミュージシャンとジャズ、伝統音楽、映画音楽などのプロジェクトで活躍している。Moussa Cissokhoはセネガルのグリオの家系に生まれたコラ奏者、若くから儀礼や式典での演奏を重ね、いまはヨーロッパを拠点に様々なジャンルのミュージシャンと共演している。Omri Hasonはイスラエル出身のパーカッショニストで、インドやペルシャの音楽に影響を受け、スイスを拠点に活動している。


3MA (Rajery, Ballaké Sissoko & Driss El Makoumi)『3MA』(2008)

マダガスカル、マリ、モロッコの(フランス語で)3つの「MA」ではじまる国から集まったミュージシャンによるプロジェクト。北・東・西アフリカのそれぞれに全く異なった音楽が絶妙に入り混じり、弦楽器の音が絡み合う。3人とも達人レベルのミュージシャンで、自然に溶け込むテクニックがすばらしい。

Rajeryはマダガスカルの弦楽器ヴァリハ奏者。幼少期に右手の指を失ったものの独学でヴァリハを習得し、弾き語りで活躍する。Ballaké Sissokoはグリオの家系に生まれたコラ奏者で、現在ではクラシックのミュージシャンとも共演しヨーロッパで高い評価を得ている。Driss El Makoumiはモロッコ出身のウード奏者で、西洋古楽にもアラブ音楽にも精通し、各地のミュージシャンと共演を重ねている。

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