生涯の愛聴盤④和ジャズ篇

 安ヵ川大樹Trio『Kanmai』(2012)

安ヵ川大樹さんは日本のジャズに目を向けるきっかけになったベーシスト。自らのレーベルダイキムジカを主宰し、ソロからラージアンサンブルまで幅広く手がけている。このアルバムは佐藤浩一(ピアノ)、橋本治(ドラム)によるトリオで瀬戸内海の島・祝島に伝わる神事「神舞」をもモチーフにしたアルバム。

全体的にゆったりした日本的な流れの曲が多く、とくに冒頭のタイトル曲や東日本大震災の折りに描かれたPray For Japanはゆっくりと祈るような禁欲と恍惚の混じったような曲だ。安ヵ川さんのベースは弓弾きで泣かせるのも特徴的だが、重厚な弓弾きのテーマで始まるGreensleevesも素晴らしい。

土井徳浩『Amalthea』(2011)

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土井さんのクラリネットをはじめて聴いたのは、池袋の小さなジャズバーで安ヵ川さんとのデュオだったのだが、お盆で雨の日だったのでほかのお客さんはひとりしかいなかった。木のぬくもりのある音を静かな店内で心ゆくまで聴けた贅沢な時間だった記憶がある。真面目そうな出で立ちの体躯から出てくる音楽はとてもヘンタイ(褒め言葉)で、お客さんはいなかったけどマスターが大喜びして、翌月もアンコールということで同じデュオで再演されることになった。

このアルバムも安ヵ川さんのレーベルから出ているアルバムで、佐藤浩一(ピアノ)、本川悠平(ベース)、紺野智之(ドラム)が参加したカルテット。現代音楽や東欧っぽさも感じさせる実験的な演奏なのだけど、伸びやかなクラリネットは先鋭的な演奏をしても気品に満ちて安定感がある。


佐藤浩一『Melancholy of a Journey』(2015)

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雨の降ったお盆の日の翌日、錦糸町で行われたすみだストリートジャズフェスティバルで出会ったのが佐藤浩一Group。ちょっと不安になるくらい優しそうな外見のメンバーが演奏する音楽は冒険しているようで、それでもふんわりした優しさがあった。アルバムを出す前の演奏だったので、リリースをずっと心待ちにしていたのだが、それが叶ったのが2015年。ライブは緊張感があったけれど、アルバムは音が綺麗にまとまっていて、Brad MehldauのアルバムHighway Riderを彷彿させる。


五十嵐一生&辛島文雄『I wish I knew』(2016)

I Wish I knew | 五十嵐一生 meets 辛島文雄 | J-ジャズ | 音楽 - Amazon

辛島文雄さんの闘病中に制作されたアルバム。五十嵐さんによれば、運良く体調の良いときにレコーディングができて、顔色の悪かった辛島さんは、ピアノに向かうとそれでもいつもの辛島さん以上の人になった、と語っている。そのまま5時間回しっぱなしで録音されたのがこのアルバムだ。

アルバムが家に届いてなにかの作業をしながら掛けてみた。少し聴いてみて、これはいけない、と思った。なにかの片手間に聴くような音楽じゃない、と思い、珈琲を淹れてオーディオの前に坐り、襟を正してひたすら聞き入った。一瞬も気の緩むことのない魂の籠もった演奏。いまも軽々しく聴くことができないのだが、最近はあまりに音楽が手軽に聴けてしまうので、このアルバムは音楽と真剣に向き合うアルバムの存在が音楽のありがたみを思い出させてくれる。

安ヵ川大樹『Voyage』(2010)

多くのミュージシャンと共演している安ヵ川さんは2ヶ月に1回、西荻窪の音や金時でベースソロライブをしている。民族音楽のライブを得意とするライブハウスで、ジャズのベースをソロで演奏するというのはなかなか意外だが、地下の薄暗い空間でお客さんも毎回それほど多くはなくて、みんな真剣にベースの低音だけを聴くという不思議な儀式のようだ。しかしその儀式にこそ日本を代表するベーシストの音楽の才能を鑑賞できるほかにない機会だ。

このベースソロアルバムはニューシネマパラダイスのテーマではじまり、オリジナル曲のVotageでは弓弾きで心の芯にまで響くような音を奏でる。Bye Bye Blackbird、In a Sentimental Mood、All Bluesなどスタンダードの名曲も取り入れつつ、Amazing GraceからGod Bless the Childで静かに祈るように締めくくる。すこしとっつきづらいところがあるが、このアルバムも虚心に音楽と向き合う1枚だ。

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