Tore Brunborgは1960年生まれのノルウェーのサックス奏者。今までPat MethenyやBugge Wosseltoft等とも共演し、ECMやACTからも数多くアルバムを発表しているベテラン。 Kjetil Bjerkestrandは1955年生まれのキーボーディストで、映画音楽を中心に活躍してきた。
本作はBrunborgのサックスとBjerkestrandのパイプオルガンで1995年に『Gull, Røkelse Og Myrra』発表され、2017年にACTから『Nordic Christmas』のタイトルで再発されたアルバムだ。教会の柔らかい音のパイプオルガンとアルトサックスだけ、一部多重録音も用いられているが、それでもきわめてシンプルな2つの楽器で重層的な音がとても魅力的なアルバムだ。伝統曲や古いクリスマスキャロルを中心に演奏されている。
1曲目は16から17世紀にドイツで活躍した作曲家、ミヒャエル・プレトリウスのEs Ist Ein Ros Entsprungen。最初はおぼつかない輪郭のサックスにふんわりしたオルガンの伴奏がシンプルな和音を奏でるが、徐々に音がはっきりしてくるにつれてコンセプトが明らかになってくる。
2曲目は18世紀フランスの作曲家アドルフ・アダン作曲によるCantique de Noël、O Holy Nightとも知られる曲だが、オルガンのアルペジオにサックスのメロディ、部分的に多重録音を交えて、繰り返しながら徐々に盛り上がりを見せ、荘厳なフィナーレに至る迫力のあふれる曲だ。
4曲目、Det Kimer Nå Til JulefestはデンマークのCarl Christian Nicolaj Balleが1850年に作曲したもので、北欧では人気のクリスマスキャロル。細かい動きのパイプオルガンによる伴奏は、優しい音で包み込むようで、サックスがある程度冒険しても全くやかましさを感じない。
5曲目、Away In a Mangerも人気のイギリスのキャロルだが、ここではリコーダーとオルガンとサックスが順にテーマを繰り返すシンプルな構成。最近はスローなテンポでじっくり聴かせるものが多いけれど、さらりと演奏してしまうのがかえって美しい。
7曲目「Adeste Fideles」はアンドレア・ボチェッリやプレスリー、エンヤなどが歌ったとても有名な賛美歌。テーマを繰り返すだけだが、オルガンが徐々に荘厳さをましてゆく。続くStille Natt は日本語は「きよしこの夜」、テーマを最初に吹き、サックスが豪快なアドリブを展開してオルガンもテンションを重ね、複雑なコードに向かってゆく。一筋縄ではゆかない豪快な演奏を、この曲でやるのは意外性がある。
9曲目「Ave Marie Stella」は中世の曲。オルガンのシンプルなソロから入り、サックスのアドリブが続き、多重録音でオブリガートが入る。伴奏も和音をシンプルに奏でるだけで、終始緊張感の途切れない演奏だ。
12曲目、「O Little Town of Bethlehem」は少し色合いの違うワルツ。リコーダーからはじまり、のちにサックスに代わる。はじめは素朴な印象なのだが、サックスが入るとまた流麗になり、それでも素朴さを引き摺っておわる。つづく「O' Du Herlige」は豪快なオルガンの和音から入るが、どこか日本の民謡や舞踊を思わせる。
最後は有名な北欧のキャロルで「Mitt Hjerte Alltid Vanker」。早めのテンポであっさりと進んでしまう。メロディの美しい曲なので意外だが、なにも引き摺るところもなくさらりとアルバムを終えてしまう、その潔さにすっきりする。
アルバム全体を通して、教会に響くクリスマスの祈りの音色であることは間違いないのだが、賛美歌らしい率直な演奏もあれば豪快なソロを聴かせる曲もある。クリスマスの歌はこの時期に聴くのでなければどこか物足りずに飽きてしまうこともあるのだが、本作においては全く損なこともなく、多様な演奏を率直に楽しめる。もう四半世紀前のアルバムであるが、色あせることなく、むしろ今聴いても新鮮味を感じさせる1枚だった。これは名盤というほかないだろう。


コメント
コメントを投稿