Hilde Brunsvikはノルウェーのシンガーで作家。本作には同じくノルウェーからHanna Paulsbergがサックス、Dag-Filip Roaldsnesがピアノ、 Trygve Waldemar Fiskeがベースで参加している。
このアルバムについてもHilde Brunsvikのことも全く知らず、レーベルのNORCDのウェブサイト上で発見して聴いてみたのだが、なんというか、格好いい女性ボーカルなんだけど、こころに寄り添うような愛に満ちた歌声だなぁという印象だった。非常にクールなのだが、ドラムがなくて、こぢんまりとした音だった。作曲は主にBrunsvikで、たまにDag-Filip Roaldsnesも加わっている。2曲目だけはスタンダードのMy Favorite Thingsだが、なぜだかノルウェー語の朗読のような声が入っている。
気になって調べてみるとなかなか面白いアルバムだった。タイトルは「Edvard Hoemの人生」という意味だが、HoemはBrunsvikの夫であり、詩人である。本作に収められた曲は、彼が1969年のデビューから現在までに発表した詩をモチーフにしており、曲を通じて彼の70年の人生、また50年の作家人生を辿るものであるらしい。
2曲目のMy Favorite Thingsに付けられた「Bassisten møter framande kvinner på Atlanterhavsvegen」という詩は「ベーシストが大西洋道路で気鋭の女性たちと出会う」という意味だが、ニールス・ペデルセンとマリア・ジョアンと高瀬アキのコンサートを見た経験を詩にしたものであるという。5曲目にも詩の朗読が加えられている。
印象的だったのは6曲目。All verdens krigar på fem minutt(世界大戦まで5分、という意味だろうか)。戦争を描いた詩であるが、悲愴なメロディに繰り返すAll verdens krigar på fem minuttという言葉が切迫感を生み、息の詰まるようなサックスもまた怒りと悲しみの混ざった赤黒い感情を煽るようだ。
とにかくBrunsvikのボーカルは透明感に溢れているのだが力強い。60歳(当時)だが声にはみずみずしさと張りがあるし、肝の据わったような安定感もある。驚いたのはデビューが2019年であるといい、シンガーとしても作曲家としても新人だということだ。サックスの感情ゆたかな演奏も歌に合っているし、曲の印象をリードするピアノは変化に富んで機敏な動きをする。あたたかく優しいベースを弾いているはこの夫妻の義理の息子だという。
こうしてアルバムの向こうの物語を知ってからもう一度聴いてみると、パートナーの人生をアルバムを通じて表現する彼女の表現力にもう一度心打たれる。このプロジェクト自体がとても珍しくて面白いものだが、もちろん音楽としてもどこに出しても恥ずかしくないどころか、完成度は非常に高い。なかなかパートナーの人生を顕彰するアルバム、というかどのような作品でも作るのはとても勇気が要るし、私情を混ぜて中途半端な仕上がりにしてしまう危険もあるのだが、このような作品を仕上げたことは希有な功績だ。

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