Daniel Herskedalはノルウェーのチューバ、バスクラリネット奏者。ジャズでチューバ奏者と聞いて真っ先に浮かぶのは、なぜチューバ? という疑問だった。しかし、ではなぜサクソフォン、なぜクラリネット、という疑問なら適切だろうか。実際に彼の演奏を聞いてみると、ふんわりとした優しい音色、靄のかかった中高音の独特な音色といったチューバの魅力が十分に分かるだろう。
ジャズの名門、ノルウェー科学技術大学出身でジャズ畑の奏者であるものの、先日紹介したPerleskumにも参加しており、最近はヨイク歌手との共作を発表するなど伝統音楽にも活動を広げている。最近では映画The Last Black Man in San Fransisco のテーマソングに参加している。
Edition RecordsからはMarius Nesetとの共作も含めて5枚目。いままでにピアノと弦楽器・管楽器のアンサンブルや、カルテットでの作品を発表してきたのだが、今回は多重録音を用いたソロ作。シンプルなベースラインの繰り返しに和音を重ねて、そこにメロディーを乗せるという構成が多用されている。アルバムタイトルが示すように本作のテーマは冬であるらしい。チューバのみで構成された音は森の中に響く角笛のようで、しっとりと霧深いけれど澄んだ空気のなかにいるようだ。
すべてHerskedal自身による作曲。1曲目Våkenattだけノルウェー語の題名で、徹夜とか、夜に起きていることを意味するらしい。Herskedalが頻繁に用いる繰り返すアルペジオから始まり、和音が入ってドラマが生まれる。2曲目がタイトル曲だが、少し緊迫感のある曲で、冬の冷たい景色が連想される。
3曲目Time of Waterは2拍ずつ旋律とベースが同時にすすみ、ときにアルペジオが入る構成は賛美歌のよう。4曲目The Hunting Golden Eagleはストーリー性を感じる作品で、最初は冬の大地に孤独に立っているような景色、そこから独りで森に奥深く狩りに行くように展開する。シンプルな音の構成で緊張感も演出し、ここまで物語のある音楽が作れるものかと感銘を受けた。
中盤も森の中を歩き続けるような曲が続くが7曲目Ice Crystalsはメロディと和音だけの構成で綺麗なバラードだし、8曲目The Cliff Nestと9曲目Arctic Fox Tracksは細かい動きのある音で小さな動物の息吹を感じさせる。 後者は短いながらチューバのソロ曲で、Herskedalの個性を匂わせる一曲だ。
最後のBy the Fireはメロディとベースだけで構成された曲。アリアのような、祈りを感じる曲でしっとりと締めくくられる。
アルバムを一貫してゆったりした流れで、非常に抑制的。過去のアンサンブルではドラマチックな曲もあったし、チューバだけでそれを行うことも可能だったのだろうけど、抑揚をあえて控えめにすることでアルバムに通底するテーマが生まれたようだ。良い音楽というのは往々にして禁欲的なので、禁欲を貫いて音を探究した姿勢は流石である。
今年の6月に発表されたアルバムなのだが今になってその真価が分かってきたような気がする。寒い夜に部屋の暖房を入れてこのアルバムを聴いていると、窓の外が雪深い静寂に包まれているようだ。雪が音を吸収したあの静けさを、音楽で再現したようなアルバムだった。

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