Shalosh 『Broken Balance』(2020, ACT)


Shalosh 『Broken Balance』(2020)、レーベルはACT。

Shaloshは3を意味するヘブライ語。イスラエル・テルアビブを拠点に活動するピアノトリオで、ジャズロックやエレクトロ、中東音楽等の要素を取り入れた先進的なジャズを得意とする。メンバーはピアノとシンセGadi Stern、ベースDavid Michaeli、ドラムMatan Assayag

トリオは2016年に来日しており、ピアノのGadi Sternはプライベートでも訪日経験がある。前作Unwards and Upwardsにひきつづき、ジャケットは京都の書家、祥洲(福田祥洲)

1曲目のThe Orphan Boy Who Wanted To Be A Kingは孤児が王になる夢を見て、その夢が徐々に具体的になってゆく様子を演奏したものだという。崩した拍子の強いモチーフを展開させていく以前のスタイルが最初の3曲くらい続き、うーんあんまり前作と変わっていないなぁという印象だったのだが、4曲目David Bowie Contemplating Art and Death in a Café in Berlinでその印象は一気に変わる。David Bowieがベルリンのカフェで芸術と死を思索する、というタイトルの表すように、David Bowieの晩年のようなダークで思索的な曲だ。それに続くのはスウィング感のある直球のジャズNinaで、ここでこのトリオの演奏の幅広さを感じさせる。

6曲目はThe Birth Of Homo Deusは、Gadi Sternまず 三部構成の映画の脚本を書き、そのサウンドトラックとして作られた曲だという。コンピューターの発展し、世界がよりよい場所になるという筋書きらしい。有名なあの本を下敷きにしているのだろう。荒廃した世界を思わせるイントロダクションから、徐々に進化を遂げて高みに至ろうとする。しかし終盤はどこか手垢のついた、チープな印象になってしまうのも計算の上だろうか。

10曲中9曲はオリジナルだが、1曲だけカバー曲がある、それが8曲目、NirvanaのBreedは遠慮無くロックを爆発させた曲になっている。

9曲目The Last 8th of Aprilも物語性があって展開が楽しめる曲だ。ボーナストラックとして収められたParty on a Powder Kegも、スウィングのジャズかと思いきや、やはりストーリーを感じさせる組曲のようだった。


e.s.t.の後継とも言われるShaloshだが、たしかにロックやエレクトロを柔軟に取り入れた音楽はe.s.t.に通じる。しかし演奏の幅や自由度についてはまだまだ伸びしろを感じるし、e.s.t.を超えたかといえばまだ首をかしげてしまう。(e.s.t.が大好きなので、この点は簡単には認めたくはない。)もちろん、e.s.t.が持たなかったリズムの柔軟性や中東音楽的な即興性は認めざるを得ないが。

それにしてもBroken Balanceというタイトルは的確で、アルバムを通して一貫した音楽というのはなく、むしろハードロックもスウィングも、映画音楽のようなメロディもあり、バランスの破れた今の社会の反映のようだ。

しかし何かを変えてゆくとき、バランスはどうしても崩れる必要がある。歩くときも動くときも人は常に均衡を破って行動する。バランスを壊すことを恐れては前に進まない。その意味で、彼らがこの先どこに進んでゆくのか楽しみである。





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