Jean-Christophe Cholet 『Amnesia』(2020, Infingo)

 


Jean-Christophe Choletはフランスのピアニスト。Matthieu Michel とのデュオや、Diagonalというオクテット、Cholet-Hänzig-Papaux(CKP) Trio等、複数のプロジェクトで多角的な活動をしている。本作は彼としては初めてのソロ作品。ロックダウン中の6月に自宅で録音されたレコーディングだ。彼は環境の変化で普段通りの活動ができなくなったこの機会を「利用して」このアルバムを製作した。

彼のピアノはいつもしっとりとした叙情的な演奏で、どんな楽器とあわせても決して濁ることのない澄んだ音がとても魅力的だ。今回は譜面を用意せず、全編を即興で演奏したという。特に前半は即興性が高くて、どこに向かうのか分からないまま、少しずつ曲の方向性が生まれてくるような演奏。鍵盤の上を踊ることは少なく、むしろコードを少しずつ踏みしめながら進んでいく。

1926と1928が何を意味するのかは分からないが、4曲目くらいから動きがおおくなり、曲にストーリー性が生まれてくる。今までの彼らしい曲だなと思えるのはやはり、タイトル曲のAmnesia。メロディアスなアルペジオを基調に透明感のある控えめなメロディが乗る。かと思えば次のRésignationではオクターブで旋律だけを自由に弾いてみたり、Les étoilesでは雨樋を打つしずくのような最小限の音で奏でてみたり、非常に内面的な演奏が目立つ。

ジャズの歴史の中に位置づけられるようなアルバムではなく、むしろ個室に籠もり、自らと向き合うことで生まれてきた音楽のようだ。Amnesiaは健忘とか、記憶喪失を意味するが、コロナで「密」や「不要不急」が失われた状況において、人と人とが関わることで紡がれてきた社会的な記憶、習合的記憶が生まれずに、私たちはどこか宙づり状態になっている。記憶をなくした人間は、歩く道を失った旅人と同じだ。その状況にあることは、ふつうはとても不安で不安定で脆弱なのだけれど、本作でCholetは敢えてその立場を利用し、新しい音楽を生み出した。まさに2020年という年に生まれた無二のサウンドだ。





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