第47回 国際ジャズピアノフェスティバル (ポーランド・カリシュ)

 Międzynarodowy Festiwal Pianistów Jazzowych (International Jazz Piano Festival・国際ジャズピアノフェスティバル)は毎年開催されているポーランドのジャズフェスティバル。カリシュの文化芸術センターで開催され、会場は非公開、オンライン配信で行われた。国際と名の付くものの、このご時世のためか一人を除いて出演者は全てポーランド国内のミュージシャンで、MCは全てポーランド語で行われた(涙)。コンサートの様子は全てYouTubeで配信され、現在もアーカイブを視聴できる。



1日目の出演者はTubis TrioO.N.E. Quintet

Tubis TrioはMaciej Tubis (ピアノ)、Paweł Puszczało (ベース)、Przemysław Pacan(ドラム)によるピアノトリオ。デビュー後間もない2008年以来の出演でオープニングを飾った。わたしは今回始めて聴いたのだが、とても気に入ってしまった。クラシックジャズにロックやメタル、ポップスの要素が入っていて、ポストe.s.t.のヨーロッパジャズの典型とも言えるのだが、ピアノの旋律は直球のジャズも丁寧に弾きこなす。ピアノの目立ち方に負けず劣らず、ドラムやベースもしっかりいい仕事をしている。

O.N.E. Quintetは2015年に結成した若き女性5人によるクインテット。今年発表したアルバム『ONE』は国内外で反響を呼んだ。メンバーはMonika Muc(アルトサックス)、 Dominika Rusinowska (ヴァイオリン)、Paulina Atmańska (ピアノ)、Kamila Drabek(ベース)、 Patrycja Wybrańczyk(ドラム)。ピアノにバイオリンとアルトサックスが加わった音だが、高音がねっとりと絡み合う少しメランコリックなサウンドが特徴的だ。スラブ的な情感とKrzysztof Komedaの系譜をしっかりと受け継いでおり、東欧ジャズに多い奥ゆかしいメランコリーが感じられる。コンサートではコメダのSventeticも演奏されている。リーダーがいる訳でもなく。特段誰が前に出る訳でもない、非常にデモクラティックな音なのだが、それでいてしっかりと主張している芯のある演奏だ。



2日目の出演者はDominik Wania とSundial feat. Irek Wojtczak。

Dominik Waniaはクラクフ音楽アカデミー、ニューイングランド音楽院で学び数々の賞を受賞したピアニスト。 Tomasz Stańko, Marcus Miller, Lee Konitzらと共演しており、今年ECMから『Lonely Shadows』を発表した。本作は全て即興で演奏されたが、今回の演奏もすべて即興演奏だ。ECMらしい音で、濁ったところが一切ない透明感の溢れる演奏だが、決して無色透明な音ではない。その時々の空気を反映しながら荒々しく駆けることも悲しみの音を上げることもあるのだが、それでも濁らない演奏力には驚く。

SundialGrzegorz Tarwid (ピアノ)、Wojciech Jachna(トランペット)、Alberta Karcha (ドラム)により2015年にデビューしたトリオ。今回はドラムとしてKrzysztof Szmańdaが代演、サックスのIrek Wojtczakが参加している。演奏は非常に即興的だが、ピアノが奏でる和音は緻密で、フリージャズのようで一見秩序より即興性を優先したようなのだが、聴いてみると丁寧に考え込まれた演奏である。



3日目はIlona Damięcka TrioGloria Campaner & Leszek Możdżer

Ilona Damięcka TrioIlona Damięcka(ピアノ)、Michał Jaros(ベース)、Krzysztof Szmańda(ドラム)によるトリオ。ポーランドを代表するピアニストの一人で、作曲でもたぐいまれな才能を感じさせる。力強く圧倒するソロも、一歩引いて叙情的な演奏をするときも変幻自在で、強い存在感がある演奏だった。ドラムのKrzysztof Szmańdaは前日に引き続いての演奏だが、彼女の演奏に引けを取らない演奏力で強い演奏に色を添えている。

Gloria Campanerはクラシックの分野で活躍するイタリア出身のピアニストで、世界の多くのオーケストラと共演している。 Leszek Możdżerもポーランドを代表するピアニストで、Lars Danielson、Michael Wollny、Iiro Rantalaなどと共演している。この演奏ではドビュッシーの月の光をはじめ、ベートーベンの悲愴(第1楽章)などクラシックの名曲を中心に、Libertango(ピアソラ)やAsturias(アルベニス)、Sventetic(コメダ)等も演奏する。ピアノ3台(うち1台は432Hz)とシンセを、入れ替わったり連弾したりしながら巧みに弾きわけ、多彩な音色を聴かせる。とにかくMożdżerの目まぐるしく急流を下るようなピアノソロには圧倒されるばかりだ。



4日目はAndrzej Jagodziński TRIO  "Bach"Adam Makowicz

Andrzej Jagodziński TRIOAndrzej Jagodziński(ピアノ)、Adam Cegielski(ベース)、Czesław „Mały” Bartkowski(ドラム)によるトリオ。Andrzej Jagodzińskiは名門のショパン音楽アカデミーでフレンチホルンを学び、1977年に自身のバンドでデビュー。1994年にアルバム『Chopin』を発表、ショパンの音楽をジャズの解釈で演奏して名声を獲得した。今回のプロジェクトはその名の通りバッハを演奏するもので、クラヴィーア曲集からプレリュードやチェンバロ協奏曲、アリアなどが取り上げられた。クラシック曲をジャズの解釈で演奏するというのは簡単だが、この演奏を聞いて驚くのは、紛れもなくジャズであり、紛れもなくバッハなのである。つまりジャズの即興においてもバッハらしさが全く失われていなくて、バッハのモチーフの使い方が巧みなのだ。バッハの文法を活かしながら即興に組み替えていく演奏力には目を見張るものがあった。

Adam Makowicz は今年80歳の大御所ピアニスト。戦後のポーランドで西欧音楽として敵視されていたジャズを演奏し、アート・テイタムなどにも影響を与えた生ける伝説だ。スタンダードを中心に安定した演奏を見せた。数多くの若き可能性溢れるピアニストたちの後でも古さをまったく感じさせない演奏を見せ、フェスティバルの締めくくりに相応しい舞台を見せてくれた。


フェスティバル全体を通して、今回はメインステージだけの8組だったものの、若手からベテランまで、そしてクラシックジャズからフリージャズ、ロックジャズを包括した幅広いジャンルでバランスの取れたプログラムだったし、どのアーティストも抜群の演奏力を見せていた。関係者だけの観覧でも熱気がないことはなくて、各アーティストの熱演が見られた。いつか現地で見てみたいフェスティバルのひとつだが、今回はこういう形で開催されたのはむしろ幸運だった。

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